あの子の涙から芽吹いたばらの花だから
春が来ればおまえは溶けてしまうというのに
星の泪に祈りを託す
その傲慢で人魚姫を騙るな
おまえのせいで羽化登仙も果たせやしない
プシュケの羽根
煩悩の淵に突き落とされた哀れな雲上人の顛末
ほころんだロマンスを歌い続ける
愛は死に到る腫瘍
ふたりの秘密は、罪の味

晩餐はお前の心臓
愛でもなければ恋でもない、ならばお前は何者なのか
花冠はいよいよ枯れて
ぼくらの有り触れた幸福は、遂に明日寿命を迎えることになりそうです
堕ちたシャングリラ
爛れた隣人愛の成れの果て
蝶番の骨
おまえの元素の一欠片、おれのものに出来ぬものか
肋骨は前世で犯した罪の数
ハーツ・クライ

ガラス製のコップの中を泳ぎ回っているふたりの秘密について
きみは優しくほほえみを振り撒くくせに、酷く冷たい唇をしていた
別れるふたりの前途を祝う晩餐会
泣いて媚びるお前も、思っていたより悪くない
白磁のような爪先で、鍵盤をなぞる
夏の終わりに、睡魔とダンス
花錆び
いつも手にしている文庫本の、特にお気に入りの一頁になってしまえたら
大して美しくもない綺麗事ばかりを並べた街灯の下で
スノーライト・テンダー

思えば、水母の浮遊のような恋でした
サイケデリック・メランコリー
ふたり肩を寄せ合った安っぽい映画のリバイバルをひとり見つめる孤独に似てる
白い背中に羽根の骨
宇宙の切れ端をつなげて、繋げて
わたしだって、悪い子になりたい
あんなに憧れていた大人も、なってみればひどく醜い
交わらない視線の先の無声劇
彼女に似合いの小さなエデン
野ばらと蛇いちごのキス

おまえの熱に浮かされたまま、泡になって消えてしまえたら
あなたの世界をすべて白く染めて
ぼくがむかえる千と一回目の春に、きみのほほえみはありませんでした
百年の恨みと、一夜の恋
きみだけの冥府で待ってるよ
沈んでいく私は深海の鼓動を聴いた
どんなに寄り添ったってひとつにはなれなかったふたりの歌
ぼくらの世界に名前をつけて
あなたを魔法使いなんかにさせてあげるものですか
舌結び

虚飾に埋もれたこの世界で
わたしひとりではしあわせにたどりつけませんか
君とのすべてが嘘だったかのように、世界は見渡すかぎりに白く
慎ましくも浅ましい
剥き出しの檻からお前を乞う
灰色の街と濡れた睫毛
悲しみの涙を流したところで、しあわせだった日々だけが残るわけじゃないのにさ
食す、というお前の愛情
お前の祈りも、俺の愛も、等しくエゴであったなら
あなたが触れたこのくちびるで嘘を吐くの

隙だらけの秘密主義
月が架ける
少女は生まれ落ちた瞬間から逃れようのない毒を孕んでいる
仮面の下に覗くあざとい微笑
きみの心臓で静かに暮らしていけるなら
いつから上手に泣けるようになったの
いつからそんな風に笑うようになったの
ぼくが提唱する永遠深海論
私たちが向かう世界にもうこの薄汚れた愛は必要ない
おやすみ美しき贄よ

クラゲのドレスと珊瑚礁、踊る熱帯魚
冷たい脚だ、と彼は微笑む
美しい鱗にそっと口づけ、かつて尾鰭だったそれを絡ませた
こころまでは人にはなれぬ
人魚の灰
きみが海に還るまで
ふたりがしあわせだった頃の愛をシリンダーに詰めて、僕は今日旅立ちます
彼は支配されたがりの神様
少女芙蓉論
きみと宇宙のカーテンコール

水の檻
冬籠もりの白い足裏
あなたはたださびしさを喰い散らかすばかりで
世界の百を知っている賢者であろうと、美しき惑いに身を沈めるのだから
世界の一も知らない僕が、情炎に焼かれて死に絶えるのも不思議じゃあないさ
口移しされたい慕情
哲学者の恋と、地理学者の愛
その指先、氷解せず
いつまで子どものふりをしているつもりなの
その永遠は生きている

例えば、膚と夢の間にたゆたうような
好きでもないし嫌いじゃない、よくもないし悪くもない
あなたの光は私には少し眩しすぎる
閉じる電車のドア越しに触れた手は、確かに冷たかったの
カペラ
十一月の驟雨に照るは赤椿
聖母の愛人
スノードームに閉じ込めたい
わたしはあなたを求めなかったし、あなたもわたしを求めはしなかった
それでもわたしたちは確かに愛しあっていた